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2009年3月19日木曜日

<イタリア便り13>私の好きなピアニスト

イタリアで初めてAndras Schiffのピアノリサイタルを聴いて以来、都合の許す限り、ミラノの彼のリサイタルには足を運んでいます。

初めて聴いたときのプログラムは、確かバッハのパルティータ全曲で、本当に感動して帰ってきたのを覚えています。 ピアノでのバッハの演奏がこんなに自然で、力強く、知的で色彩豊かで、あぁ、 目指すバッハの音楽は同じで、楽器が違っても、その音楽を表現する方法が変わるだけなんだ!と、強く思ったものです。

その後、フランス組曲全曲リサイタルを聴きに行き、今回は、モーツァルト・プロジェクトということで、全3回の演奏会のうち、初めと最後を聴くことが出来ました。

第一回 2月23日
Sonata K331, Rondo K485, Adagio K540, Nove variazioni su un Minuetto di Duport K573, Sonata K545, Sonata K310


第三回 3月9日
Fantasia K475, Sonata K533, Sonata K576, Rondo K511, Sonata K457


初回の第一曲目が始まったときの感動は、今でも忘れません。あの和音の推移があまりに美しくて、目がうるっとしてしまいました。彼の演奏でいつも驚くのは、ピアノの可能性を最大限に出し、これほどまでに美しく様々な音色を出せることです。楽器の完全支配と言ったらいいのでしょうか、ペダルの微妙な使い方にしても、目と耳を疑ってしまうほどでした。(このようになるまでには、どれほどの準備をしたことかと思いをはせつつ、この魔法のようなペダル使いはいったいどうしているのかと、目を見張って一生懸命に足元を見てみたのですが、無駄でした(笑)

魔法といえば、演奏全体も魔法のようで、低めの椅子に座って、両手を鍵盤の上に置くと、彼の音楽が流れ出てくるような感覚でした。会場のミラノ国立音楽院のSala Verdiは、1580席のとても大きなホールですが、そこで思いっきり落として、舞台のピアノの場所だけにほんわりと当てた照明も、 親近感がありとてもよかったです。 彼の大変落ち着いた雰囲気には、時として、お家で弾いているのを近くで聴いているかのような錯覚に陥り、同時に1000人以上の聴衆と共に聴いているとは、とても信じられませんでした。それだけ音楽に集中させられるというのは、本当にすごいことです。また、次のリサイタルを心待ちにしています。

2009年3月5日木曜日

<イタリア便り12> パラッツォ・クレーリチ

3月になりました。音楽院は中間試験期間中で、4時間の楽曲分析の試験を無事終えたところです。私の部屋には小さなお雛様を飾り、外は、なんとなく春の匂いがするような気がします。食卓には、数日前から日本に一時帰国している友人一家にいただいたポピーが元気に咲いています。

今日は、18世紀の宮殿でフォルテピアノを弾いたときのことを、忘れないうちに書いておきます。ミラノの中心部に位置するこのPalazzo Clerici(クレーリチ宮殿)は、18世紀初頭の建築で、タペストリーの間にはティエポロのフレスコ画があります。




18世紀の宮殿の大広間という、この上ない贅沢な空間で、初めて楽器を触れたときの驚きは、とても新鮮でした。もちろん、当日の楽器を使ってのリハーサルは、違う場所で何度か行いましたが、場所が変わると楽器の音も信じられないくらい変わり、無理しなくてもパーンと飛んでいく音にはびっくりしました。とても感動的でした。

使用楽器は、1790年代のドゥルケンのコピーで、すべての音にそれぞれ2本ずつの弦があるのですが、それだとどうしても高音が弱く、クリアでないのです。(そのすぐ後の、ヴァルターなどは、高音域に3本の弦を張るようになります)そのため、高音域と低音域のバランスをとるのが難しかったのですが、当日の演奏会場では、見事に高音が響きました。やはり、こういう場所で弾くために作られた楽器なのだなぁと、心から思いました。





そしてなんと、1771年にはイタリア旅行中であったモーツァルトが、この宮殿に立ち寄っています。かなり前に読みたいと思って購入した「モーツァルトのイタリア旅行」という本( I viaggidi Mozart in Italia, Rudolph Angermuller) が本棚にあったのを思い出し、そのときのことが書いてあるかもしれないと思い、取り出してみたのですが、特にパラッツォ・クレーリチについての記述は、残念ながらありませんでした。

過去にモーツァルトが居た空間で、再び彼の音楽を鳴らすというのは、言葉で表せないくらい感動的でした。こうして、ますます日本に帰れなくなってしまうのです・・・。


2009年2月8日日曜日

<イタリア便り11> スカラ座 当日券の話

前回のイタリア便りは、ポッリーニのリサイタルのことだけでかなり長くなってしまったので、スカラ座についてちょっと付け足しです。

本当に行きたかったヤナーチェクのオペラ「マクロプロス事件」は、結局観に行けませんでした。先月から今月にかけて、2週間ほどの間に8回の公演があり、一度は風邪のため諦め、一番最後の公演日にもう一度挑戦しようと思ったのですが、その日は朝、音楽史の講義のためにコモに行ったら教授欠勤のため講義が無く、往復計3時間を無駄に費やしたら、心身共にがくっと疲れを感じて、体が動きませんでした。

もう一度挑戦というのは何かというと、当日券入手に挑戦するということです。スカラ座のチケットは、有名なものほど発売と同時に売り切れという状態で、普通に購入するのはほとんど無理なのです。それで、毎公演、天井桟敷の当日券が100枚以上あって、しかも1枚10~15ユーロと格安で、学生にはうれしいものです。それでも、有名なオペラだと、朝、昼、夕方5時と3回もの点呼に足を運ばなければならず、体を張っての入手になるのですが、今回のヤナーチェクのオペラは、ヴェルディなどの超有名伝統的イタリアオペラではないし、チェコ語だし、とまぁいろいろあって、初日に観に行った友人から、夕方6時半に行って余裕だったと聞いていたので、しめしめ!と思っていたのです。

それで、再度挑戦しようとした日は、夕方6時ごろに行こうと思い、それまで少し休んだのですが、それから起きるのが大変で、また開演の夜8時半までにはかなりの中途半端な時間ができるし、終演後、家に0時過ぎに帰ってくることを思ったら、ちょっと体力的に無理でした。あぁ、本当に残念でした。でも、行くつもりで読んだオペラのあらすじや、ヤナーチェクについても少し知ることが出来たから、良かったことにします。

今月5日からはワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」が始まっているので、ぜひ行ってみようと思っています。



2009年2月6日金曜日

<イタリア便り10> スカラ座

ミラノは2月になってまた一度雪が降りましたが、すぐに雨になり、今日も雨模様です。冬一番の寒さは通り越し、ダウンジャケットで歩くと暑くなったので、普通の冬用コートに替えました。

さて、先日、スカラ座で行われたマウリッツィオ・ポッリーニのリサイタルに行ってきました。本当に行きたかったのは、ヤナーチェクのオペラだったのですが、それを調べていたらたまたま目に留まり、さらに一番安い天井桟敷のチケットが一枚残っていたので、すぐに購入しました。

ポッリーニを生で聴くのは初めてで、イタリアに居るんだからポッリーニくらい聴いておかなくちゃと思い、プログラムも前半がベートーヴェンのソナタ「テンペスト」「熱情」と私でも良く知っている曲だったので、嬉々として行ったのですが、期待はずれでした。

スカラ座という空間のためなのか、私の聴いていた場所のためか、ピアノの音がクリアでなく、強弱も平坦で、メゾピアノからフォルテまでしかないような印象で、とてもテンペストや熱情という言葉からは遠い、きれいなロマンチックなものに聞こえました。私は、煮えたぎる激しい音楽、感情、ドラマを聴きたかったのになぁ。コンサート用シュタインウェイという、モダンピアノの最たるもの、ピアノの進化を重ねた結果の最高のものと信じられている楽器を使用しているのに、皮肉なものです。

ブラヴォーの嵐の末、なんだかやりきれずにむっとして異常に長い休憩時間を過ごしていれば、隣ではド派手な化粧をしたおばさんたちが、「あぁ、本当に素晴らしい、ポッリーニは回を重ねるたびにより偉大になるわぁ」とか大声でわめいているし、私は気分が悪くなり、帰ろうかとも思ったけれど、後半はがらっと変わってブーレーズのソナタ第2番という演目だったので、留まりました。なんだか、ブランド商品に踊らされる消費者を見たようで、悲しくなりました。

ブーレーズは正直に言って、私には好きとか嫌いとかの判断にも困るような、理解の対象を越えるものだったけれど、曲が始まって、お!これが12音技法かな?!という初めての出会い的うれしさはありました。それにしても、はじめから終わりまでずっと同じ音を聴かされているようで、30分が永遠に感じました。12音技法は民主主義の概念から生まれた・・・ということを最近の授業で耳にしたけれど、確かにそうでした。教養になりました(笑)

昨年9月の、私の浜離宮のリサイタルに来てくださったある方が、~チェンバロはピアノより表現力に富んでいるかもしれない~という感想を下さったのを思い出し、そんなことを考えながら帰途につきました。


2009年1月13日火曜日

<イタリア便り9> オリジナルのフォルテピアノ

先週の1月6日、7日、イタリアは大雪に見舞われ、ミラノは40センチの積雪で1985年以来の記録的大雪だったそうです。私は、昨秋からコモ国立音楽院のチェンバロ科マスターコースに在籍していますが、そんな大雪の大混乱の中、今年は7日から学校が始まりました。

道にはまだ雪が残る中、11日(日曜日)はリハーサルのためベルガモに行って来ました。来月14日にフォルテピアノで私の教授と「モーツァルトと同時代女性作曲家」を取り上げた演奏会があり、モーツァルトの4手のためのソナタを合わせました。

教授のお家には、チェンバロ、クラヴィコード、そしてフォルテピアノが2台あるのですが、贅沢なことに、そのうちのオリジナルの1台でリハーサルさせていただきました!1803年ごろのものだそうで、やさしくて本当に美しい音でした。以前にも少し触らせてもらったことはありましたが、今回何時間もモーツァルトの音楽を弾いてみることができ、感動しました。なんとも言えない、とっても魅力的な歴史を感じる音がしました。

この楽器には、モダンピアノのように足で踏むペダルが6つ付いていて(確か)、左から2つ目が、押すと音が伸びる、いわゆる普通のペダルでした。また、演奏会に使う楽器は、1790年代のドゥルケンのコピーなので、ペダルは膝で使用するタイプの楽器です。楽器の中央に2つ付いていて、それをひざで持ち上げます。右が普通のペダル、左が弱音ペダルなので、4手のソナタを弾くときには、一つずつ担当します。この、膝で持ち上げるという動作は、はじめ慣れるのに時間がかかりましたが、だんだん自然に出来るようになって来ました。

チェンバロ科の第2楽器で、初期のフォルテピアノを触るようになりましたが、チェンバロとはまた異なる魅力があり、モーツァルトがとても新鮮に感じられます。昔、ピアノではモーツァルトを弾きましたが、モーツァルト以前のピアノのレパートリーといえば、バッハとスカルラッティくらいで、あまり総体的に知る機会がありませんでした。それが、チェンバロで200年以上にわたるモーツァルト以前のレパートリーに出会った後に、モーツァルトに再会したわけです。そうすると、モーツァルトの音楽言語が同時代のバッハの息子たちに似ていたりして、なるほどな!と思ったりするんです。

そんな新たな発見をしながら、楽しく準備に励んでいる今日この頃です。 

追伸:今日はこれから、チェロのDaniel Muller-SchottとピアノのAngela Hewittによる、ベートーヴェンとショスタコーヴィッチのチェロソナタや変奏曲を聴いてきます。

2009年1月1日木曜日

<イタリア便り8> 賀春2009

明けましておめでとうございます。
このホームページは昨年春に開設したわけですが、これまで訪ねて下さった皆さん、演奏会にお越し下さった皆さん、そして、更新速度がなかなか上がらない、私のイタリア便りを読んで下さった皆さん、本当にありがとうございます。

欧州は平年より雪が多く、ミラノもすでに数回雪が積もりました。イタリアでは、ナターレ(クリスマス)は家族と、新年は友人や恋人などと過ごすのが習慣です。こちらにいると、やはり日本のお正月が恋しいです。年賀状の届くのが楽しみで、朝から何度も郵便受けを見に外に出ていたのを思い出します。

今年は、実家から送ってもらった小包に入っていた屠蘇散とお餅で、お屠蘇と簡単なお雑煮を作って雰囲気を味わいました。昨年は、日本酒はあったのですが屠蘇散が無かったので、いろいろ考えて、日本酒にハーブティーのティーバックとお砂糖を加えて、洋風お屠蘇を作ったら、結構近い感じになったものです!

音楽家としての勉強はもちろんですが、今年は、このイタリア便りももう少し頻繁に更新していきたいと思います。平和な社会に思いを寄せつつ、皆さまの健康とご多幸をお祈りいたします。本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

 

2008年11月7日金曜日

<イタリア便り7> オバーマ!

4日は夜中の2時までテレビを見てしまった。
アメリカの大統領選関係の番組はかなり盛り上がっており、どんどんいろいろな州の結果が入ってくるので、止められなくなってしまったのです。オバーマが優勢とはすでに言っていたけれど、心の中で、アメリカだから最後まで分からないなと思いながら、その日は寝ました。


翌朝、テレビをつけると、オバーマ氏当選、第44代アメリカ大統領というアナウンスと、彼の輝くばかりの笑顔、そして彼の支持者たちが広場にもうこれ以上入れないというくらいに集まって、すごい興奮と期待で当選演説を聞いている映像が流れていました。

集まった支持者の半数はアフリカ系アメリカ人だと言っていましたが、そうした人々が涙を流して、手を握りあって演説を聞いている映像を見て、こちらまで目頭が熱くなり、ぞくっとしました。今回オバーマ氏が当選したことのスケールの大きさ、意味、などが私に押し寄せてきました。

「アメリカは何でも可能な国」と、彼の口から聞いたときには、本当かも、と思えました。これまで長い間、民主主義、自由の国、といったイメージからは程遠く、言葉だけが空回りしていたので、本当にオバーマ氏に期待したい。

世界の事情は、いやというほどアメリカに振り回されてきたし、それこそ世界制覇(コントロール)がアメリカ政府の目標だったように見えます。日本だって良い例だし、イタリアも欧州も他国の選挙にこんなに反応するのは、やっぱりアメリカは影響力がありすぎるから、放っておけないのでしょうね。

テレビでは、歴史的な一日!今日から世界が変わる!なんて大げさなことを言っていますが(イタリア人の何でも大げさに言う癖かな)、冷静に見ていきたいと思うし、私は静かに期待しています。

2008年10月8日水曜日

<イタリア便り6> 秋ですね

Villa Giustinian
みなさん、お久しぶりです。
この夏は2ヶ月間、日本に一時帰国していました。 イタリアに留学して以来の一番長い滞在でしたが、今回は7回の演奏会であっという間に過ぎてしまいました。演奏会に来てくださった皆様、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。


さて、ミラノに戻ってきたのは9月29日、もうすっかり秋のミラノは、朝晩かなり冷え込み、そろそろ暖房の季節です。10月5日には、ヴェネツィアの北の小さな町Portobuffolèにある、17世紀の館 Villa Giustinianで、イタリア人のヴァイオリン奏者と演奏してきました。ミラノからは、電車で4時間です。街中を歩くと、建物の形やその窓の形にヴェネツィアの影響が多く見られ、また水路が多いのも、印象的でした。

演奏会翌日には、そこから車で1時間ほどの町Udineを案内してもらいました。スロヴェニアに近いこの街では、フリウラーノというイタリア語の方言を話し、食べ物も、牛肉を煮込んだようなものなど、東欧の国々の食文化が混ざっていました。イタリアも広いなーと感じながら、街を歩きました。

2008年6月22日日曜日

<イタリア便り5> ミラノの夜

ふわぁっと浮かんだ音に、おもわず笑顔にさせられる・・・。
そんなやさしさに包まれた至福の時間でした。


最近、なかなか演奏会に行く余裕がなかったのですが、昨夜、久しぶりにイタリアの古楽アンサンブル「アカデミア・ビザンティーナ」の演奏会に行ってきました。

ちょうど夏至だった夜の9時、まだ明るいなか、ミラノの中心にあるパラッツォ・リッタの大きな中庭で始まった音楽会は、コレッリのコンチェルトから始まり、ヘンデルのコンチェルト・グロッソ、途中、上空を飛び交う鳥たちのさえずりを聞きながら、ジェミニアーニのコンチェルト・グロッソ「ラ・フォッリーア」、休憩は無しで、ヴィヴァルディのコンチェルト2曲、そして最後にバッハの2台ヴァイオリンのためのコンチェルトで締めくくられました。

イタリア音楽らしい、楽しく快活な印象がとても気持ちよく、またゆっくりの楽章の豊かな歌には、本当に体がほぐれるような感じでした。鳥肌が立つような突然のピアノもスリルがありました。第1と第2ヴァイオリンの掛け合いは、見ていても面白く、演奏者同士がお互いを見合って、笑顔で会話を楽しんで弾いている様子は、本当に素敵でした。バッハのコンチェルトニ短調の2楽章は、あまりにきれいなヴァイオリンの音色に、目頭が熱くなりました。

イタリアの演奏会でよく感じるのですが、演奏者が心から音楽を楽しんでいるのが、本当に伝わってくるんですね。聴衆も自然と笑顔になる。

抜群のテクニックと音楽性に、遊び心たっぷりの、宝物のような音楽を全身で満喫して、今ここにいて良かったぁ、音楽って体にいいなぁと思いました。私が演奏するときにも、一人でも多くの人に笑顔を届けられたらいいな、と思います。

2008年6月14日土曜日

<イタリア便り4> パレルモの喧騒

Tomokoはパレルモに行ったことある?とこれまでに何度イタリア人に 聞かれたことか・・・そしてこの噂に聞くシチリア島の美しい街をついに見てきました。

訪問の一番の理由は、今月8日にあったF.コルティとのチェンバロ ドゥオ コンサートでしたが、演奏会当日お昼の飛行機でミラノを出発、飛行機は30分遅れ、空港から市内まではバスで50分、演奏会場のキアラモンテ宮殿に着いたのは、夕方5時でした。お昼も食べずに、すぐに2台の位置決めに入り、結局一番良いとなった、お互いに向かい合う形で1時間ほどリハーサル、パニーノをほおばってから、ソロの現代曲をどちらの楽器で弾くかを決めたのち、少し楽器を試奏しているうちに、調律の人が20時ごろ来て、それからは楽譜を整頓したり、着替え、お化粧などして、あっという間に開演の21時15分になりました。

プログラムは、前半と後半どちらも2曲のドゥオの間に現代曲のソロを挟むという形で、ドゥオではその場その場で臨機応変に、お互いの会話をドキドキしながら楽しむことができました。

アラブ・ノルマンの文化が混ざった美しい教会などで有名なパレルモは、そぞろ歩きも楽しいのですが、どこでもすごい量の車とバイクがごちゃごちゃと灼熱の太陽の下を走っていて、まるでここはカトマンズ(ネパール)?と思うような光景でした。その騒音は、今でも耳に残っています。また、美しい教会や宮殿の中、回廊、海辺など、喧騒から一瞬離れた空間は、鳥のさえずり、風、静かな波、木の葉の揺れる音に囲まれ、別世界でした。

さらさらと透き通る水が揺れる海辺では、その自然の静けさに、また次の音楽のために体が充電されるような気がしました。

2008年5月2日金曜日

<イタリア便り3> Stefano Montanari氏のマスタークラス

ご無沙汰してしまいました。
先月は演奏会が集中してしまって、イタリア便りを書こうと思いつつ、 あれよあれよとあっという間に時間が過ぎ、気がつくと月が替わっていました。 今回は、4月にコモ音楽院で行われた、バロックヴァイオリンのStefano Montanari氏のマスタークラスについて、書きたいと思います。


私は、ヴァイオリンの生徒ではありませんが、参加していた生徒さん達の伴奏を頼まれ、マスタークラスに参加する機会に恵まれました。 さすがに、あまり突然にピアノ譜(通奏低音の数字もない)を渡されたりしたときには、私はチェンバロを弾くのに・・と寂しくなりましたが、あの素晴らしかった5日間を思い出すと、そうした時間をみんなと共有することができて良かったなと、心から思います。

とにかくStefano(ここからは、名前で呼ばせていただきます)はすごいんです!彼の演奏はもちろんですが、教え方も素晴らしかったです。音楽に対する果てしない想像力、そしてそこから出てくるヴァイオリンの音には鳥肌が立ちました。またヴァイオリンという楽器の可能性を再認識させられるような表現や強弱。「古楽だから繊細でおとなしい」というようなイメージは捨てて、 「もっともっとピアノ!」「もっとフォルテが出せるでしょう!!」と、よく言っていたのを覚えています。そういわれて、超ピアニッシモの音を出してみた生徒さんは、自分でもすごくびっくりした様子でした。そのようにして、新たな息吹を与えられた音楽は、本当に色彩豊かでした!ちなみに、参加者の多くはモダン楽器を使用していました。

私も以前、イタリアのバロックオーケストラの養成コースに参加したときに、イタリア人の 先生が「もっとピアノ」「もっとフォルテ」と言っていたのを思い出します。 そしてまた今回のマスタークラスに接して、再び、バロック音楽や表現一般における 可能性を目の当たりにしました。 こうした優れたイタリア人の古楽器演奏家は、とても興味深く、北ヨーロッパの品の良い古楽に比べて、新たな可能性を感じます。

近年、古楽の勉強にイタリアに来る人がどんどん増えているのも、そうした魅力と関係が あるのかもしれません。



2008年3月27日木曜日

<イタリア便り2> ショートオクターヴの1週間

今月、教会のオルガンを弾くコンサートがあったのですが、そこには、1835年にAngelo Amati というイタリア人が作ったオルガンがあると聞いて、楽しみにリハーサルに行きました。

そこで発見したショートオクターヴ(短いオクターヴ)。イタリア語ではオッターヴァコルタといいますが、どういうことかというと、音域の一番最後のドからドのオクターヴが見た目はミまでしかないのに、ちゃんとドまで音があるんです。ド、シ、ラ、ソ、ファまでは普通なのですが、その後、ミはソ#を押して、レはファ#、ドはミを押すと出るようになっているんです!分かります?

このような楽器が普通に使われていた何百年も昔は、横幅(音域)の 狭いコンパクトな楽器に、より多くの音があるという、大変便利なもの だったと思いますが、今日、こうした楽器に触れる機会は少ないので、慣れるのに時間がかかります。

これをもう少しリアルな感覚で説明すると、リハーサル中、曲を弾いていて、ラbだと思って弾いたらミが鳴って、「うそっ・・!?」と思い、ショートオクターヴであることが判明、一緒にリハーサルしていた歌手の二人に一生懸命説明して、 「ラbが無い!!!」とワーワーひとりで焦っていた訳です。 だって、その辺のラbもファ#もミbも存在しないのです!

それで、リハーサルから帰ってきてからは、家のチェンバロをショートオクターヴに調律して、気を取り直してコンサートまでの1週間、ショートオクターヴで過ごしたわけです。 一週間の効果は見事に現れ、逆に今度は同じ曲を普通の鍵盤で弾くのに、ショートオクターヴの癖が取れないくらいです(笑)

また、フローベルガーのトッカータで、私の手では絶対につかめない和音を、ショートオクターヴによって初めて聞くことが出来たのは感動的でした。 この感動を、私の先生に話したのですが、先生の手は大きく、「僕はつかめるけど」 と遠慮がちに言われ、同じ感動を分かち合えなくてちょっぴり残念でした・・・

最後になりましたが、素晴らしいオルガンでした。

2008年2月26日火曜日

<イタリア便り1> コンセルヴァトーリオ(音楽院)の試験

みなさん、こんにちは。
イタリア国立コモ音楽院チェンバロ科に通って3年目になりますが、今日は、通奏低音の試験に 行ってきました。試験は、前もって締め切り日までに学校に申し込みをしておいて、試験当日は決められた時間に行くと、その場で通奏低音課題を渡されて、チェンバロのある部屋で1時間の練習時間が与えられます。 

課題は、パスクイーニのパルティメントと、ロカテッリのフルートソナタ 第1楽章でした。それぞれの数字付き低音に、1時間で出来る限りの美しい和声付け(=音楽作り)をして、3人の試験官の前で演奏します。 この1時間の集中度は、かなりのものなので、終わるとぐったり疲れますが、今日も無事、終了しました。

3月3日には、Trattatistica と言って、いわゆる学術論文を扱う試験があり、今回のテーマは、「L.モーツァルトのヴァイオリン奏法(1756)とC.P.E.バッハのクラヴィーア奏法 (1753、1762)の装飾音についての比較」ということで、ただ今勉強中です。 

こういった理論系の試験は、3人の試験官(イタリア人教授)を前に、約20分間ひたすら述べるという口頭試験で、これは一問一答などというものではなく、とにかく話をすればするほど良いようで、外国人の私は、何を読むにも話すにもハンディーを感じます。(今回の2冊はたまたま日本 語訳があり、ラッキーです!) でも、こうした何百年も前の偉大な作曲家の残した名著を読むのは、非常に面白いです。

ということで、あと一つ、頑張りたいと思います。